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死者に薬草を手向けたわけ

2025年4月

 今から50年前、イラクのシャニダール洞窟という所で、6万年前の人類の骨が発見されました。分析の結果、ネアンデルタール人のものと判明しましたが、考古学者たちは人骨の周りで、花粉の化石も発見しました。顕微鏡で観察するとその形から、現代にも存在するヤグルマソウ、ゼニアオイ、ムスカリ、マオウの花粉であることが判明しました。

 当時の学者たちは、花粉が残っていたのは、古代人たちが死者に花を手向けたから、つまり「葬儀」が行われたためだと考えました。その洞窟には何体もの骨が集合していて、お墓として使っていたのは間達いなさそうだったからです。
 しかし、その後何年もたってから、これらの花粉はミツバチが運んできたものだという説が有力となり、古代人が死者をいたむ気持ちの証明ではないと結論づけられるようになりました。ちょっとがっかりですね。

 ところで、マオウ(漢字で「麻黄」と書きます)はその他の花と違い、黄色くて小さくて目立たず、とても死者に手向けるためにはそぐわない感じがします。しかし、この草の茎には身体を温めたりする作用があり、風邪のときなどにはマオウの粉を煎じて飲むと寒気がとれてスッキリするのです。この植物の効用は中国古代の医書にも記されていて、漢方薬の原料となり、麻黄湯、葛根湯などの成分として、今日まで伝わっています。その後、この成分の化学構造がわかり、マオウの学名(エフェドラ)にちなんでエフェドリンと名付けられました。
 エフェドリンは現代でも使われています。これは身体を温めるだけでなく、気管支(肺の中の空気の通り道)を広げて呼吸が楽になり、咳がおさまりますので、市販の総合かぜ薬には入っていることが多いのです。ただし、様々な副作用があるので、使用にあたっては注意が必要です。心配な方は、必ずかかりつけ医に相談しましょう。

 さて、洞窟の古代人もマオウの効能には気づいていたのかもしれません。最初に発掘した考古学者たちは、この死者が「医者」で、埋葬した人たちが彼を偲んで、彼がよく処方していた薬効のある草の花を選んで置いたと考えたそうです。つまり、遺体で見つかった人類最古の「医者」だったのではないか、というわけです。
 さて、ここからは私の勝手な想像ですが、死者にマオウを手向けたのは、その不思議な力に呪術的な意味づけをし、もしかしたらよみがえりを願っていたのではないでしょうか。これも古代のロマンですね。皆さんはどう思われますか?

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