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ディスレクシア

2023年12月

 その少年は1946年、アメリカのオハイオ州で生まれました。父親は電気技師で貧しかったようですが、母親にはたっぷりと愛情を受けて育ちました。
 少年は成長して小学校に人りましたが、他の子たちよりも読み書きを習得する速度が遅く、このためいじめを受けたこともありました。今日で言う学習障害の一つ、ディスレクシア(失読症)だったのです。(ディスレクシアは知的には問題ないけれど、読み書きが困難な小児の病気で、決してまれではありません。)そのため、学校も休みがちで、自宅で過ごすことが多かったのですが、少年にはただ一つの楽しみがありました。それは、父親に買ってもらった8ミリカメラでした。学校に行かない日にはこのカメラで遊んでいたのです。当時は戦後のアメリカ文化が花盛りだった時代で、ディズニーやハリウッド映画が次々に公開されていました。少年も触発されて一人で映画作りを楽しんでいたのです。そんな少年を陰ながら支えたのは母親でした。学校に行かない我が子を叱るのではなく、やさしく見守っていたのです。
 少年はその後、映画監督として立身し、人々を驚嘆させるような作品を次々に誕生させていったのです。その名はスティーブン・スピルバーグ。「ジョーズ」「未知との遭遇」「インディー ・ジョーンズ」「ET」「シンドラーのリスト」など、名だたる作品は皆さんもご存じでしょう。しかし、あの少年の日々に両親の愛情を受けていなかったら、このディスレクシアの少年はうずもれたままだったかもしれません。
 2012年に彼は障害について告白し、「私は映画を作ることで、恥ずかしさから解放されました。確かに学習障害があるとさまざまな困難に直面しますが、それは可能性を狭めるものではありません」と語っています。
 学習障害は発達障害の—型です。ですが、「障害」という語感にとらわれていると、本人も周囲の人も、スピルバーグ監督が言う「可能性を狭める」方向に行ってしまうのではないでしょうか。
 大変ですが、あるがままを受け入れ、勇気を持ってもらいたいと思います。

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