医療トピックス
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小中学生の近視が増えている。
2023年3月
はじめに
21世紀の小学生、中学生はスマートフォンやパソコンを使うことで、20世紀よりも近くを見る時間が多い時代に生きています。令和1年の文部省の学校保健の調査で、眼鏡をかけない視力が1.0未満の中学生が57.5%になったと報告しています。また、令和2年度に行われた京都教育大学付属小中学校の調査では、コロナ禍による自宅待機、オンライン授業の増加で眼鏡をかけない視力が0.7未満の子供の割合が17.7%から23.4%に増加しました。近視の増加は日本だけではなく、2050年には全世界人口の50%にあたる49億人の眼鏡をかけない視力は、1.0未満になると予測されています。
なぜ近視はよくないのか
近視と言っても「普通の近視」ではなく、将来失明する病気を起こす「病的近視」が問題になっています。先ほどの予測では2050年には「病的近視」が全世界人口の10%になるとされています。
なぜ近視になるのか
研究では、近視は「眼軸(眼の直径)が長くなること」で発症します。また、近視の発症と進行に強い関連があるのは「屋外活動時間が短く太陽光線(紫外線)を浴びる時間が短い」、「近くを見ている時間が長い」、「勉強時間ならびに勉強する期間が長い」、「遺伝的要因(両親が近視だと子供も近視になる傾向がある)」の4つとされています。
近視の予防対策1:環境の改善
近視の進行を抑えることに成功した国もあります。シンガポールと台湾です。この2国は日本よりIT化が早く、近視の増加は深刻でした。対策として昼間の屋外活動時間120分を行うことや、1000~3000Luxの明るさで近視が抑制されるという研究をもとにし、学校現場で屋外活動時間120分行う国家規模の対策を取り入れました。台湾では教育現場で、近くを見ている時間が30分を過ぎたら10分休憩させることを実践しました。その結果、シンガポールでは2004年から、台湾では2010年を境にして近視人口割合の減少に成功しています。
近視の予防対策2:医療として介入する
医療として近視進行抑制を行う治療が数多く報告されています。代表的な治療としては、「低濃度アトロピン点眼」、就寝中に特殊なコンタクトレンズを使用する「オルソケラトロジー」があります(図1)。現在最も治療効果があるとされているのは、「低濃度アトロピン点眼とオルソケラトロジーの併用療法」で、日本の医療施設で取り入れられています。しかし、眼障害の発症危険があるため、習熟した眼科専門医の管理下で治療をする必要があります。また中断による近視進行が報告されており、患者様の時間的、経済的負担は大きいです。
おわりに
近視を予防することで将来の眼の病気が40%低下するという論文もあります。しかし、予防方法の効果は確定してはいません。皆さんが一番納得のいく方法をかかりつけの眼科医と相談することが大切です。
図1
装用前:近視の状態 眼は入ってきた光を角膜と水晶体で屈折させ、網膜上で焦点を合わせることにより像として捉えます。近視の場合は、この焦点が網膜より手前で結ばれるために像がぼやけて見えます。 | |
装用中 「オルソケラトロジーレンズ」を就寝時に装用することにより、角膜前面の形状が平坦化され、焦点が網膜上で結ばれます。 | |
装用後 平坦化された角膜前面は、レンズをはずしても一定の時間内は形状を保つことができるため、日中は十分な視力が得られます。 |