医療トピックス
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生理前の体調不良
2022年8月
生理前の体調不良、程度の違いは有れ、多くの女性でご経験があるのではないでしょうか。月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)は月経(生理)の前の3から10日間に現れる心身の違和感で日常の生活や社会生活にも支障を来すような状況となる疾患です。下腹部痛、腰痛、胸の張りに加え、イライラする、憂鬱、涙もろくなるなどの身体的、精神的症状が繰り返し出現し、集中力や意欲の低下、作業能率の低下、さらに人間関係の悪化などが生じます。しかし不思議なことに生理が始まると種々の症状は消えてしまいます。歴史は古く紀元前から認識されていたらしく、世界最古の臨床医学書にもその症状が記載され、効果のある漢方薬の処方内容が記載されているようです。
病因は未だ不明な点が多いですが、症状発現時期が月経周期に関連していることから女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンの変動が重要な因子とも考えられます。しかし正常女性とPMS患者さんではでこれらのホルモンレベルに差がないことから女性ホルモンの直接的な作用でないことは推測できます。では何が原因なのか?
プロゲステロンは最終的にアロプレグナノロン(ALLO)という物質になるそうです。この物質が抑制的神経伝達物質であるγ‐アミノ酪酸(GABA)の受容体に作用するようで、PMS患者さんでは黄体期後期のALLO濃度が著名に低下しGABA作動性の神経興奮抑制作用が減弱し、不安やうつなどの神経症状が発現する可能性が示唆されています。GABAは血圧対策サプリでも有名ですが、こんなことにも作用しているようです。
またプロゲステロンは幸せホルモンと言われる脳内のセロトニンの活性を低下させ、抑うつ気分の原因になるようです。
さらに「生理前になると甘いものが欲しくなる」なんてことをよく聞きますが、これは血糖値をコントロールするインスリンというホルモンが関与しているようです。生理前にはインスリンの作用が弱まり、血糖値が上がりやすくなります。すると今度はインスリンが多く分泌され血糖値が下がるため、眠気や甘いものが欲しくなるなどの低血糖症状が出ると考えられています。これもPMSの症状の一つかもしれません。
治療としてはいわゆる低用量ピルの内服により排卵を抑制することで症状が改善したり、SSRIといううつ病の治療薬や漢方薬が使われることもあります。さらにカルシウム、ビタミンB6やハーブの一つであるチェストベリーの摂取が有効とも言われています。
少々難しい話をしましたが、PMSは多種多様な症状があり原因も多々あるので、周囲にはなかなか理解してもらえず、患者さんは苦しんでいるようです。少しでもつらいことがあれば遠慮なくお医者さんにご相談ください。