医療トピックス

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1000万人の胃弱

2014年5月

 胃がいつまでももたれて苦しい、食欲がない、食べるとすぐ満腹になる、薬を飲んでも胃の痛みが取れない。そんな症状の人が増えています。病院に行って、胃カメラ検査をしても異常がないと言われ、強力な胃酸分泌抑制剤(PPI「ネキシウムやタケプロンなど」やH2ブロッカー「ガスターなど」)を飲んでも症状が改善しない。ピロリ菌が原因と言われて除菌しても、症状が続いている。ストレスが原因とか、精神的なものだと言われてしまいがちですが、こんな症状の病気を『機能性ディスペプシア』と呼ぶようになったのは、ご存知でしょうか?
 かつて胃下垂という病名がよく用いられた時代がありましたが、やせた女性に多く、バリウム検査をすると大きな胃袋が力なく骨盤まで垂れ下がっていました。一方健康的な胃袋は、バリウムが胃の上部にたまってなかなか下に落ちません。ほっておくと5分しても10分しても胃の出口のほうへ降りてこないのです。これでは検査ができませんから、深々とお辞儀をしてもらいます。するとバリウムがやっと胃の下部に降りてきます。
 内視鏡検査でも同じです。胃カメラが胃の中に入ると誰でも簡単に出口まで行けると思うのですが、胃の上部の空間をぐるぐる回ってしまって、どうしても下部に入れないことがしばしばあります。強力な筋肉が胃を上下2つの部屋に分けているのです。ここは消化のための重要な場所です。塩酸を分泌する細胞は胃の上部にしかありません。タンパク質を消化する酵素のもと(ペプシノーゲン)を分泌する細胞も胃の上部にあって、酸性の環境でタンパク質を消化し、外部から侵入した細菌を殺しています。
 胃の入口にある胃底部は、空腹時はわずか50ml位の容積しかないのですが、食事をすると1.5リットルまで拡張して数時間食べ物をためられる様になります。この機能は胃適応性弛緩と言いますが、機能性ディスペプシアの患者さんにはこの機能が障害されて、食べ物が直接胃の出口まで入ってしまうタイプの人がいます。すると胃の上部が拡張しないので、わずかの食事で満腹になります。強酸性の環境を維持できないのでタンパク質の消化ができず、いつまでももたれが続きます。酸性の消化物が容易に十二指腸に入ってしまうため、吐き気や腹痛を誘発します。
 消化管運動機能改善薬は、胃の運動機能を改善し、症状を軽減する薬です。しかし、なかなか有効な薬が少なかったのですが、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(アコファイド)は、食後の膨満感、上腹部膨満感、早期満腹感のすべてで効果が実証され、初めて機能性ディスペプシアに有効な薬として昨年6月から処方できるようになりました。
 『機能性ディスペシア』ガイドライン2014では、健診受診者の11~17%が機能性ディスペプシアであり、上腹部痛を訴えて病院を受診する人の45~53%がこの病気だとしております。つまり1000万人くらいの患者さんがいることになります。アコファイドはすべての機能性ディスペプシアに効果があるわけではありませんが、50%くらいの方に効くと言われています。「胃弱」と諦めていた方も、もう一度治療に挑戦してみてはいかがでしょうか? 但し、薬を処方する前には必ず胃内視鏡検査または胃X線検査で、別の病気がないか調べる必要があります。

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