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漢方薬の上手な使い方

2025年10月

漢方薬については世間で誤解されている事項がいくつかあります。

その1:漢方薬は長く飲まないと効かない、というふうに理解されている向きも多いと思います。
 たしかに体質改善を図るのであれば、月単位での根気良い服薬を必要とする場合もあります。とはいえ、西洋薬よりも即効を発揮する場合もあるのです。たとえば風邪をひいて鼻水が出るとき、西洋薬(抗ヒスタミン薬)を飲んでも効いてくるのは2時間後ですが、漢方なら30分で鼻水が止まります。こむら返りに芍薬甘草湯を飲めば、10分後には楽になることを経験された方はたくさんいらっしゃると思います。頭痛・腹痛・腰痛などでも時と場合によっては一服で症状を改善させることができます。

その2:漢方薬は副作用が少ないとされています。
 たしかに西洋薬のように、致命的な副作用が出ることはごく稀ですが、副作用がないわけではありません。多くの漢方薬に含まれている「甘草」という生薬は、大量に服用を続けると、血圧上昇、むくみや筋力低下などの症状を呈する偽性アルドステロン症となることがあります。また、「麻黄」を含む「葛根湯」や「麻黄湯」などの方剤を高齢者が服用すると心臓を刺激されて不整脈が出たり狭心症を発症することもあり、また前立腺肥大のある男性では尿が出にくくなることもあります。「小柴胡湯」を長期間のむと間質性肺炎に、「加味逍遙散」など「山梔子」という生薬を含む漢方薬の長期服用で腸間膜静脈硬化症となり、腹痛や下痢などの症状が出ることがあります。それぞれの出現頻度は少ないのですが、留意すべきことではあります。

その3:高血圧・高脂血症・糖尿病・肥満などを漢方薬で治療したい、という希望で診療所を訪れる患者さんがいらっしゃいます。
 しかし、現在使用されている漢方薬の大部分は1000年から2000年前につくられたものです。当時は血圧や血糖値、コレステロールなどの概念はなく、それらを下げるという発想もありません。昔はしばしば飢饉が訪れ餓死することも稀ではありませんでした。肥満で困ったのはせいぜい王侯貴族だけで、一般庶民は栄養障害でやせ衰えることはあっても肥満症になることはなかった。したがって痩せ薬は漢方にはありません。以上のように血圧・血糖値・体重などの数字を下げることは漢方薬には向いていませんが、それらの病気に伴う自覚症状については有用です。例えば、降圧薬で血圧は正常化したけれど頭の重苦しさは残っている、血糖値を下げることは西洋薬で可能だったが尿路感染症を併発して不愉快である、などの症状を緩和することは漢方の得意とするところです。

 以上のことからおわかりのように、漢方薬の使命は不愉快な症状を緩和することにあります。
 たとえば、寒い冬だけでなく、夏でも冷房による「冷え」に悩む人はたくさんいます。たんに手足が冷たいということだけでなく、頭痛、肩こり、腰痛、腹痛、便秘、下痢、月経痛、むくみ、頻尿、めまい、不眠、しもやけができる、風邪をひきやすい、などのいろいろな症状を伴うこともあります。体を温める西洋薬はありません。冷えの症状を改善させるのは漢方治療の最も得意とするところです。

 また、多忙で疲労困憊したとき、大病後の病み上がりで消耗しているときなどに、西洋医学の薬だったら何を使いますか? ビタミン剤?栄養ドリンク剤? いずれにしてもその効果は限定的です。そんなときは漢方薬がおすすめ、病態に応じて「補剤」を投与することで、期待以上の効果をあげることができます。

 不眠・不安症状に悩み、精神安定剤や睡眠薬を服用したいが、その副作用や依存症が怖いと感じていらっしゃる方には漢方薬がおすすめ。そのメリットは、眠くならないので仕事や車の運転に支障がないこと、飲酒も可能なこと、筋弛緩作用、依存性や翌日の持ち越し効果などの副作用のないことをあげることができます。即効性の点では西洋薬にかないませんが、個人の体質・体格・症状にあわせて処方を工夫すると、たんにこころが落ち着き眠れるようになるだけでなく、からだ全体の機能を改善することが可能です。

 以上のように漢方治療のできること・できないことを理解されたうえで、漢方薬を服用されるようおすすめいたします。

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