医療トピックス
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高齢になったら運転してはいけないの?
2017年5月
多くの方にとって車は重要な移動手段であり、高齢になるほど買い物や通院のために、車を利用する人の割合が多くなります。しかし最近、高齢ドライバーによる高速道路逆走や、アクセルとブレーキ踏み間違えなどによる悲惨な交通事故が報道されています。
高齢になると①目の機能が衰え、視野が狭くなり、②動作反応の機能、特に複数の作業課題を同時に行う能力が低下し、③経験が豊富なためかえって過信しやすい、という特徴があり事故の原因になると言われています。特にブレーキを踏んでいるつもりなのに減速せずパニックになり、ますますアクセルを強く踏んでしまう、ということは主に動作反応機能の低下によるものです。
では、高齢になったら運転をやめなくてはならないのでしょうか。健康状態のとても良い高齢者は多く存在します。そういう方は長く運転を継続していくと良いでしょう。大切なのは運転に関する自己能力の衰えを自覚し、自分の欠点を補うように運転することです。例えば視力の衰えに対して夜間の運転を控える、反応の衰えに対して朝夕の混雑時を避ける、経験を生かして慣れた道を運転することです。
それでは運転をやめるのはどういう時でしょうか。「車庫入れがうまくできなくなった」「前進とバック、ウインカーの左右を間違える」といった操作ミスや「慣れた道なのに間違える」「鍵の置き場所を忘れる」などの記憶力・注意力の低下みられたら、認知症の可能性があるので、運転免許返納を考えた方がよいでしょう。
認知症の中でも、例えばアルツハイマー型認知症では、空間の位置関係に関する理解が障害されるため、運転の最中に車の位置がわからなくなり、センターラインをはみ出したりすることがあります。また、脳血管認知症では注意力散漫になりブレーキのタイミングが遅れることがあります。ピック病といわれる認知症では、脳の前方部が障害されるため、交通ルールを守ることが難しくなり、信号無視などがみられることがあります。
認知症に起因するこれらの運転行動は、重大な事故につながる恐れがありますから、本人の安全、そして公共の安全のためにも、自動車の運転を継続することは避けたほうが良いと考えられます。
高齢者ドライバーによる交通事故の増加を受け、75歳以上のドライバーが対象となっている認知機能検査で、認知症の恐れが判明した人すべてに医師の診断を義務づけることになりました。しかし運転ができるということは生活の足を持つということと同時に、自立していることの象徴でもあり、運転をやめることは不便になるだけでなく、尊厳が傷つけられる可能性があり、免許返納を巡ってトラブルも予想されます。
2025年に最大で約730万人、65歳以上の5人に1人に達すると見られる認知症。いつ自分や家族に降りかかってもおかしくない問題です。免許返納より10年も20年も前から「車に乗らない生活」をよく考え、備え、そして家族とも話し合っておきましょう。